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土地の形状をいかした「パノラマの家」

  建築コラム
太陽が昇り、沈むまで楽しめる『パノラマの家』。

三角形の土地。家をどう建てる?

朝、コーヒーの香るリビングでくつろぎ、夕方は真っ赤に染まる空をウトウトと眺めながら夕飯の想像をする。こんな暮らし、素敵ですよね……。『パノラマの家』は、お施主さんの「仕事が休みの日は、太陽がのぼり沈むまでボーッとこの景色を楽しみたい」というコンセプトをもとに、生まれました。

この家は、南側に開けた高台の敷地に建ち、そこからは延々と屋根が連続する広がりある景色を楽しむことができます。高台という好立地ですから簡単に設計できるだろう、と思われる方もいると思いますが、これが本当に大変でした。敷地形状がまさか、まさかの三角形だったのです!

南側は広がっているので23mの広さがありますが、北側に行くにつれ狭くなり、ちょうど直角三角形を少し変形させたような形状です。道路付は北側ですので、どうしたものかと車のアプローチを含め建物形状でもとても悩みました。

『パノラマの家』敷地、建物形状 検討図

上の図を見てください。建物を書いたパート1(赤線)のように配置すると、建物形状は四角でシンプルですが、奥の尖った部分が無駄になり、道路から出入りする車も停めづらくなりそうです。形状をいろいろ変えてみるものの、尖った部分の使い道がなく、この敷地を上手くいかせてないような気がしていました。

この敷地の良さは、三角形の底辺に当たる南側の眺望です。そして、お施主さんの「朝から晩までその景色を楽しみたい」という要望をいかさなくてはなりません。そこで思い切ってしまいました。敷地形状に逆らうことなく南側に広がる建物を素直に土地の形状に合わせて建ててしまおうと(笑)。

三角形の建物を建てよう!

じっくり考えた結果、でた答えは「三角形の建物」でした。上記の図のパート2(青線)のように、この敷地に対して三角形の建物を建てると駐車場のスペースもたくさん取れて、建物が無駄なくすっぽりおさまるのがわかると思います。

こうして結果を見ればなんてことないですが、この結論にはなかなか辿り着かないんですね。これまでも特殊な形状の建物は設計させてもらっていますが、無駄とか、無理と思った提案はしません。お施主さんは一生、この家に住むわけですから無理な提案するのは失礼です。

しかし、このケースの場合三角形という形は、一見特殊かもしれませんが、敷地にとってもお施主さんにとっても、とても合理的です。前回も書きましたが、他の人にはわからない自分たちだけが知っている家のよさがあるっていいですよね。家は建ってからがスタートですので、そのよさを知っていると愛着が湧き、家が建った後も大切に使われていくのだろうと思います。

『パノラマの家』北側外観。三角形の敷地に三角形の建物がすっぽり納まります。

2階リビングに広がるパノラマの景色が魅力!

敷地形状に合わせて南側に広がる三角形の家を提案するにあたり、リビングは景色がより見渡せるように2階に配置し、せっかくですから横長の窓をこれでもかと確保しました。結果、窓全長で17mとれました。朝から晩までパノラマ景色を存分に味わえます。

2階にリビングを配置したといっても、高台にありますので、外からの視線も気になりますよね。そこで、プライバシーを守るため、窓を床から1.4m上げて、外からの視線を遮断しました。同時に、窓から下の1.4m部分は収納にしました。窓の全長と同じですので17mの大収納です。

細長いリビングに合うように、6mのダイニングテーブルもつくりました。キッチンの前でお子さんが勉強をし、背面にある自分の収納に片付けるという仕組みです。

長いダイニングテーブルは食事、勉強など多目的に使えます。窓下部分がすべて収納です。

廊下+クローゼットなら無駄がない!

1階には水まわりと4つの部屋がありますが、この部屋数がまた悩ましく、細長い家ですから長い廊下が必須です。廊下ってどうしても無駄に感じてしまって、なんとかしたい衝動に駆られます。だってその分、部屋が広い方がいいですからね。

今回も約5帖が廊下の餌食になるところでしたが、廊下の幅を1.5mに広げ、片側をウォークインクローゼットとすることで免れました。各部屋の中に収納は作らず、廊下を挟んだ反対側にみんなで使えるファミリークローゼットを確保したのです。

4つの部屋の廊下に大容量のクローゼットを設けました。

バックヤードをヒントにした「大収納の家」

収納の話になりましたので、『パノラマの家』とは別の事例になりますが、『大収納の家』について書きたいと思います。この住まいのメインは14帖の収納です。洋服が大好きなお施主さん。アパートの一室が洋服や靴であふれていましたので、なんとかしたいという要望でした。

そこで考えたのが店舗などのバックヤードです。基本的な商品は店頭に並んでいますが、在庫はお客さんからは見えない奥に収納してありますよね。その発想で、下の写真のようにお客さん用の動線と、家族用の動線を完全に分けました。玄関から入ると2箇所のドアを設け、1方はリビングへ、そしてもう1方はバックヤードへの動線です。

バックヤードは靴の収納から始まり、洋服収納、布団などの寝室収納、洗面収納を経てお風呂まで続きます。リビング(店頭)を大収納(バックヤード)がL型に包んでいる形状ですので、必要なものをバックヤードに取りに行くという具合です。収納は大量に確保できますし、ざっくり片付けてもお客さんには見えません。その収納のおかげで生活感のないスッキリしたリビングをつくることができました。

『大収納の家』では、玄関からお風呂まで連続する14帖のバックヤード的空間が魅力!

夢と生活、同時に満たす方法を考えよう!

すばらしい絶景だったり、美しい光が差し込んだり、生活感のないキラキラした空間だったり、想像を超えるような夢であふれる住まいはとても重要です。

ただ、その裏には毎日の生活が同時に存在します。仕事のあと食事を作る、朝早く起きて洗濯をする、子どもが夜泣きをする、まだまだ生活の中にはいろいろなことがあります。基本的にみなさん、毎日大変なんです。

だから住まいを提案するときは、夢と生活を同時に満たせるように心がけています。コンパクトで使い勝手のよい家事動線があれば、その分、優雅にお茶を飲む時間もとれますからね!


荒井 慎司

イン-デ-コード design officeを主宰。1979年2月18日宇都宮市に生まれる。宇都宮日建工科専門学校卒業後、TAKES設計事務所に入社。2008年、独立し、現在に至る。業務内容は、1.住宅、店舗、事務所、インテリアなどの企画、設計・監理、2.リフォームの企画、設計・監理、3.家具のデザイン等。
https://in-de-code.net  info@in-de-code.net

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