家を建てるなら家を建てたい!とちぎの住まいづくり
建物データ
●施主様: 宇都宮市 菊地さん ●家族構成: ご夫妻+お子さま ●建物面積: 29坪 ●敷地面積: 150坪 ●設計: 塩田大成(ビルススタジオ)

外とつながる自由な土間暮らし

都宮市郊外。のどかな田園風景が広がる場所に、会社員の菊地利典さんと移動販売のコーヒースタンド「WANI COFFEE」を営む幸代さん、スケートボードが好きな梅太くんの住まいがあります。えんじ色の平屋に寄り添うように停められているのは、幸代さんの販売車。笑顔の絶えない菊地さんファミリーの、のびやかな暮らしを紹介します。

ワンルームの土間で自分らしく暮らす

「こんにちは」満面の笑みで出迎えてくれた幸代さん。玄関ドアから室内に入り、靴を脱ごうとすると、ある(・・)はず(・・)の玄関ホールが見当たりません。戸惑いながら進んだ先には、広々とした土間スペースが。南側の大窓からは、さわやかな夏空と一面の緑が見渡せます。

ワンルームの土間スペースで、自分たちの暮らしを満喫

土間暮らしという菊地さんの住まいは、驚くことに、水場と同居予定の幸代さんのお母さんの部屋以外、寝室も子ども部屋も仕切りのないワンルーム。キッチン、ダイニング、リビングからなる土間スペースを中心とした、オープンスタイルの住空間です。

さらに住まいの特徴となっているが、外部と境目のない設計を実現した室内空間です。靴を履き替えることなく、外へ自由に出入りができ、室内で過ごしていながらも、屋外にいるかのような一体感。菊地さんの住まいは、自分たちらしさを追求した究極のかたちでした。

たどり着いたのは幼き思い出の残る場所

住まいの南側に広がるのは、近隣の農家さんの野菜畑。キッチンの正面の窓から見えるこの自然風景は、まるで一枚の絵画のようです

カーテンと網戸のない開放的な住まい。南側の大きな窓から広大な風景を、一日を通して楽しめる。

そんな自然に恵まれたこの場所に、菊地さんファミリーが、家づくりを本格的に考えたのは今から4年ほど前のこと。それまで利典さんの実家で両親と同居をしていましたが、梅太くんの成長につれ、手狭に感じるようになったというのが住まいづくりのきっかけでした。

密集地ではなく、開放的な場所で暮らしたい。

気に入った土地でなければ、新しい家は諦めてもいい。家の建築は、知人の大工さんに施工してもらうことが決まっていたため、土地探しからスタートしたそうですが、利典さんの妥協を許さない性格ゆえに、理想の土地がなかなか見つからず、難航を極めることに。不動産会社の人を車に乗せて、気になった場所を見つけては「あそこは買える?」と、ぐるぐると探し回ったこともあったそうです。こうして家族がのびやかに暮らせる自然に囲まれた場所を探し、2年以上の歳月をかけて出会ったのが、鬱蒼とした木々に囲まれ、誰も住んでいない小さな家が建っていた、この場所でした。

「もともと、この辺りは私の地元。自然も豊かで実家や職場からも近く、私が幼い頃に遊び親しんだ神社もあって、あらためて、この場所がいいなって思ったんです。だから、自力でこの土地の持ち主を探しました(笑)」

自然とえんじ色が集まってしまったという菊地邸。今では、菊地家のシンボルカラーに。

地元の不動産会社や地域住民の協力を得て、見事に土地と建物の所有者を見つけた利典さんは、意を決してこの土地を購入できないか、直談判。説得を重ね、見事、土地を購入。空き家を更地にし、ようやく住まいづくりのスタート地点に立ったのでした。

清家清氏の自由な発想に惹かれて

インドアなのにアウトドア気分にさせてくれる、個性際立つ菊地ファミリーの住まいは、建築家・清家清氏の自邸に感銘を受けた、利典さんの強いこだわりがあってのものです。

「ある雑誌に掲載していた、清家さんの住まいを目にしたときに、それまでイメージしていた“家”という概念が覆されたんです。こんなにも外と中の隔たりがない、自由な住まいがあるんだって」

そんな自分の思いを幸代さんに伝えると、意外にも好反応。利典さんも、ほっと胸をなでおろしたそう。

テントを張れば、おうちキャンプのはじまり。テラスでくつろぐ利典さんと梅太君。

「私は“ここは子ども部屋、ここは寝室”って部屋が決まっているのが嫌だったんです。そのときどきに応じて自由に空間を使いたいし、片付けが苦手だから、コンクリートの広いワンルームの土間なら自由に仕切れて掃除も楽だなって(笑)」と幸代さん。

実際に住んでみると土間は暮らしやすい利点もたくさんありました。脱衣所やトイレまでも続いているため、掃除は一気に、はき掃除だけでOK。さらに忘れ物をしても、靴を脱がなくていい。室内にいながら、自転車や縄跳びなど外遊びができるといった、気づきもたくさんあったといいます。

室内には梅太君の趣味のアウトドアスポーツ用品も。日当たりのいい場所に置かれた愛猫のケージ。

屋外と屋内の境のない空間が楽しい

基本的にはイス生活という菊地さんファミリー。たまにはゴロンと横になりたいと思いませんか?と尋ねると、そんなときはアウトドア用のマットを敷いて、くつろいでいるんだとか。

マットの上で横になり、お茶を片手にご家族が集う様子は、まるで、公園でピクニックを楽しんでいるかのように見えました。

マットを敷いて、家族団らんのひとときを楽しむ菊地ファミリー。大きな本棚もこだわりのひとつ。

青々とした芝生にテントを張る利典さんに、幅広いテラスでスケートボードの練習をする梅太くん。キッチンでは手作りのおやつを準備する幸代さんの姿があります。

見渡す限り広がる田園風景。敷地が自然と田畑になじみ、一体感を醸し出している。
オープンキッチンでおやつの準備をする幸代さん。快適な住まいとなった。

屋外と室内という意識を忘れさせてくれる自由度の高い住まいは、私たちの想像以上に楽しさや豊かさ、遊び心をご家族にもたらしてくれるのかもしれません。毎日が自由で、面白い。家族みんなのおもちゃ箱のように、終わりのないワクワクがこの住まいには詰まっているのでした。

土間スペースにつながる梅太君の部屋。仕切りはカーテンで。
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